安藤玲子 2000 NEW 教育とコンピュータ, 16(3),
52-53.
新たな学校形態
― ヴァーチャル大学最前線 −
お茶の水女子大学人間文化研究科 安藤 玲子
今日,高等教育へのインターネット利用が急増している.1998年10月にアメリカの4年制および2年制大学を対象にした調査1)では,2256校のうち,97%がインターネットアクセスとウェブサイトによるサポート,48%が遠隔地教育,42%が授業へのアクセスを提供していた.また,今年の5月には,現実のキャンパスを一切持たないヴァーチャル大学としては全米で初めてジョーンズ国際大学(JIU)が正式に認可された.
インターネットを利用したヴァーチャル大学の利点の一つは,遠隔地にいる学生や,時間的余裕のない学生が,自宅や会社にいながら自分のスケジュールにあわせて学習できることにある.そのためのツールとして用いられる電子メール,掲示板,ホームページからダウンロードする自習用の教材などは,時間に制約されずに利用できるので便利である.
しかしながら,これらのツールだけでは,効率的な討論やグループワークをする場合,学生同士の親密な関係を保つためには不十分と考えられているようで,チャットなどの同期的なコミュニケーションツールを利用する大学も少なくない.しかし,これらのツールにも限界があり,テキストベースで相手の表情が見えず声も聞こえないことなどから,相手への侮辱的な言葉や非難が増え,討論が長引くという問題点が指摘されている2).
そこで今回は,ヨーロッパの4カ国をまたいで行われたBoegh
et al.,(1998) 3)のヴァーチャル大学に関する国際的な実践的研究を紹介し,テレビ会議システムを組み入れた新しい形態のヴァーチャル授業の一例を覗いてみようと思う.
研究の概要
1.内容
対象者:ヨーロッパの4カ国(デンマーク,イギリス,ドイツ,アイルランド)から募集した自宅やオフィスからインターネットへアクセスできる社会人と学生からなる40名の学生と2名の講師.
コースのトピック:「ATMネットワーク入門」(受講に際して資格や知識は要求されていない)
コース内容:4日間で,オンライン講義4回,実習を伴う自己学習3回,グループ実習3回,教室でのディスカッション1回.
2.ヴァーチャル大学のデザイン
1)教育モード
非同期(時間的な制約がない)モード:インタラクティブ(対話型)な教材を用いた自習,掲示板会議への参加.
同期(決められた時間に参加が求められる)モード:オンライン講義,グループ演習.
2)ユーザーインターフェース
音声と映像ツールで拡張したネットスケープ・ナビゲーター(一般的なウェブ・ブラウザの一つのため,学生が違和感なくヴァーチャル環境になじめる)とOSを選ばないJava言語.
3)ヴァーチャル大学の概観
目的別の部屋を備え,現実の大学を連想するように構築されており,ネット上で学生は,それぞれの部屋を感覚的に動き回れる.各部屋は次のような目的と機能を持っている.
@教室
オンライン講義やプレゼンテーションに用いられる.この部屋が用いられるときは,学生はその時間にアクセスしなくてはならない.この部屋には音声ツールとテレビ会議システム,その他のコミュニケーションツールが設備され,講師用のホワイトボードやプレゼンテーションの間に注釈を加えたりウェブ上の任意のページを示すことができるスライドプロジェクターもある.更にテレビ会議を円滑に行うために,講師が発言者の音声と画像を制御する音声・画像コントロールツールも準備されている.
A講師用オフィス
講師が学生用の新しい自習用教材を作ったり,学生の個人的な相談にのるために使用する.講師は必要に応じてここにアクセスし,この部屋に用意された自習用教材作成ツールや,音声ツールやテレビ会議システム,ノートパッドなどを利用する.
B自習室
学生はこの部屋で,自習用の教材や演習資料,前の講義で使われたスライド,補足資料などを調べることができ,リンクを使って他のサイトに飛ぶこともできる.この部屋は非同期モードの教育環境にあるため,学生はいつでも勉強することが可能であるが,講師や他の学生とのコミュニケーションはできない.
C共同研究室
この部屋は少人数の学生グループが,演習のためにグループワークを行えるように準備されている.同期モードで使われるため,音声ツールとテレビ会議システムの設備,ノートパッドやホワイトボード,その他グループ演習に必要なツールが用意されている.
D喫茶室
休憩中に,学生仲間との非公式のコミュニケーションのために使用される.多くのテーブルが用意され,学生達は座って,仮想のお茶を飲みながら交流できる.同期モードで使われ,各テーブルに音声ツールとテレビ会議システムの設備が備えてある.
Eインフォーメーション
講義,共同作業,自習用資料の予定表や説明などのコースに関する全ての情報,コースに参加するすべての講師や学生の紹介文や写真などを閲覧できる.
F掲示板
特別のトピックに関連づけられたディスカッションを行う場である.学生が教育の一部として参加することを期待されているもので,講師は規則的にチェックする.
4)学生に求められる設備
PCカメラつきのマルチメディア・パソコン,ヘッドセット(マイクつきヘッドホン),インターネットへの接続環境.
結 果
各セッションの終了時に学生から得た質問紙への回答や特定の話題へのレポート等から下記のような結果を得た
― 肯定的結果 −
1.ヴァーチャル大学のデザイン
本実験のヴァーチャル大学が現実の大学を模倣したつくりになっていたため,非常に理解しやすく,その探索に何の支障も感じなかった.
2.教育効果
・ 同期・非同期の2つの教育モードが互いに相乗効果をもたらし,教育効果を高めていた.
・ 同期モードのオンライン講義とグループワークは,学習を動機づけるように見えた.
・ 学生はテレビ会議システム形式のディスカッションに肯定的で,多くのものはすぐに議論に参加し,真剣に討議に参加した.また,グループワークでも多くの学生は非常によく働いた.
・ 一般的に,学生は,現実の大学の講堂で質問するよりもオンラインで質問することをより容易に感じていた.
・ 本実験で使用した自習用教材はアニメーション、セルフテスト、見出し等をふんだんに用いたインタラクティブで高品質なもので,学生の満足度も高く学習効果も高かった.
− 否定的な結果と提案 −
・ 同期モードのオンライン講義とグループワークで学生への負担が観察された.彼らの注意がパソコン画面と,受信された音声に集中されたため,彼らは疲労し,注意力が散漫になった.Aオンライン講義は30分を超えない方が良い.また,1日に行うオンライン活動の合計時間も制限すべきである.(全体を通して本実験のスケジュールは超過密であり,実際のカリキュラムでは,1コース最低2〜3週間は取るべきであるとBoeghらは提案している.)
・ 同期モードのオンライン講義とグループワークで何人かの学生は疎外されたようになり,全く質問をしなかったり,グループワークに加わることを試みなかった.したがって,この環境下での活動に参加し関わっていくことに困難を感じる学生がいることが示された.しかし,この問題が個人差によるものか,環境的な問題かに関しての検討はされておらず,更なる検討が必要である.
・ 学生と教師間のコミュニケーションの距離に関して,学生達は現実の大学の講堂で行われる授業よりは近く,現実の教室よりは遠く感じていた.音声と映像を同期的に交換し授業に参加するなど大学での現実の授業と同じような経験が与えられたにもかかわらず,なぜこのような結果が得られたのかに関しては更に検討が必要である.
・ 掲示板自体は学生に受け入れられていたが,いくつかの非常に面白いディスカッションがなされたときに,少数の学生しか参加していなかった.A掲示板会議(非同期モード)を行う場合には,特定の割り当てを与えるなどで,学生が実際にこれらの設備を使うように仕向けることが必要である.
今後の展望と課題
今回紹介した実践的研究は,ヨーロッパ4カ国の学生がインターネットを使用して,自宅やオフィスから,音声と映像ツールを駆使した授業に同期的・非同期的に参加したヴァーチャル大学の1例であった.このように場所を問わずに受けたい授業が受けられるヴァーチャル大学の形態は,地理的・時間的条件の厳しい人に限らず,不登校児,障害者,高齢者などの様々なニーズを満たし,今後,高等教育に限らず発展していくことだろう.
このようなヴァーチャル大学は,革新的であり,将来の需要も見込まれるが,講師に新しいスキルが要求されるものである.講師はメディアを使いこなすだけではなく,その使用法について学生を指導でき,技術的な問題の場合にも支援できなくてはならない.その負担をどのように軽減させるかについての更なる検討も必要である.
引用文献・資料
1)Market Data Retrieval 1999 Higher Ed Technology
Survey Findings. Education Market News. (http://www.schooldata.com/edtech.html)
2)Siegel, J., Dubrovsky., Kiesler, S., &
McGuire, T.W. 1986 Group processes in computer-mediated
communication. Organizational Behavior and
Human Decision Processes, 37, 157-187
3) Boegh, J., Krebs, A. M., Petersen, L.
O. Wagner, M. 1998 A Web based Virtual College.
WebNet98, World Conference of the WWW, Internet
& Intranet, Association for the Advancement
of Computing in Education.