小林久美子 2000 NEW 教育とコンピュータ, 16(2), 52-53.

 
ネットで育む親密な関係

 ―関係形成の場としてのMOO―

お茶の水女子大学大学院人間文化研究科発達社会科学専攻 小林久美子


 メールやチャット、電子掲示板、フォーラムなど、コンピュータを介して他者とやりとりする手段を、我々はすでに多く持っている。それらは、遠く離れた家族や友人とのやりとりを容易にするだけでなく、今まで全く面識のなかった人とのコミュニケーションをも可能にした。そして、それはさらに、我々がその見知らぬ他者とコンピュータを介して新たに関係を形成できるという可能性を示唆している。では実際、我々はそのような関係を形成することができるのだろうか。
 コンピュータを介したコミュニケーション(Computer Mediated Communication ; CMCとも略される)に関するこれまでの研究は、見知らぬ他者との関係形成が可能であるかについて、否定から肯定へと意見が揺れてきた(土橋,1999)。主に否定とされる根拠には、そうしたコミュニケーションが特徴として持つ、相手の表情やメッセージの雰囲気が伝わらないといった社会的手がかりの欠如などの性質が挙げられる。一方、肯定側は、そうした不利な性質に対し、例えばフェイスマークを使用するなど、創造的に補うコミュニケーションをすることで、豊かな関係を形成できるとしている。こうした移り変わりの背景には、コンピュータの利用が当初は一部の企業や研究者に限られており、情報交換以外の目的であまり利用されなかったこと、また関係形成を促進するような場も少なかったことなどがあると考えられている。それらを考慮すると、コンピュータの利用も多様になり、単なるおしゃべりを目的とした気楽な場なども多く見うけられる現在は、コンピュータを介した関係形成を肯定とする側に有利な状況にあるようだ。実際、関係形成が可能であるとする立場から、その先の疑問、すなわち「どのくらいの人が関係を形成しているのか、その関係の質は現実場面で形成されるそれと異なるのか」といったことを扱った研究もすでにいくらか見られている。今回はそうした研究のなかから、いくつか興味深い結果を報告しているパークスらの研究を紹介する。

■MOOにおける関係形成
 コンピュータを介して他者と関係形成を行うには、それを促進・支援するような社会的な場が重要であると述べたが、パークスとロバーツ(1998)の研究ではその場としてMOO(Multi-user dungeon Object Oriented:ムー)と呼ばれるチャットを取り上げ、そこに所属する人々の関係形成を検討した。MOOというのは、MUD(Multi-User Dungeon)とよばれる仮想空間の1つであるが、MUDは他者と戦う競争的なロールプレイングゲームに近い性質のものであるのに対し、MOOはより社会的で、他者との接触を楽しむものとされている。MOOは、基本的に文字を通して創り出される仮想世界で、ユーザーはそこに性別や容姿などを好きなように設定した自分だけのキャラクターを持つ。そのキャラクターを通して、ユーザーはみなMOOの構成員となり、自由にMOO内を行動する。MOOでの行動は会話に限られるだけでなく、家具や建物などの環境も思い通りに設定することができる。例えば、壁紙や照明など自分の好みの装飾がなされた部屋に他のユーザー(の創り出したキャラクター)を招いて、バーチャルピザを取ったりすることも可能である。キャラクターどうしのメッセージのやりとりには複数の方法があり、MOO内の同じ場面にいる人みなで共有する会話として表示されるメッセージと、特定の個人あてで他からは見えないように送ることのできるメッセージがある。また、MOO内でのみ利用できるメールシステムもある。
 以上のような場でコミュニケーションを楽しむユーザーに対し、パークスらは関係形成にまつわる疑問を大別して3種尋ねた(表1参照)。次にその方法を述べる。

■研究方法
 被験者の選定は、まずアメリカで最大のMOOを含め全部で7つのMOOを選び出し、次いで2週間以内にそれらのMOOにアクセスした人をランダムに抽出するという方法で行った。そうして選ばれた1200人に、MOO内メールを通じて調査を依頼し、Web上でのアンケートフォームか、Emailのいずれかで回答を得た。調査用紙は、2段階に分かれており、1つめの調査で被験者の年齢・性別などの属性と、MOOでの関係形成(最も親密な人1人)について尋ねたあと、2つめの調査で、オフライン生活の関係(オンラインと同等の関係にあたる人1人)について尋ねた。回収率は20%、235人(男性52%、女性48%)で、2つめの調査まで全て回答した者は155人であった。なお、Q5のニュースグループでの関係形成については、先行研究(パークスとフロイド,1996)の結果を用いて比較した。

■結果と考察
(1)関係形成の質と量
 まず、MOOを通して知り合った人(パートナー)がいるかどうかを尋ねた結果、少なくとも1人と関係を築いている者は90%を越え(Q1)、そのうちの半分は4人〜15人と関係を築いていることがわかった。この関係形成数は、年齢やネット歴、MOOのアクセス時間といった要因とは関連しておらず、関係を多く築くものとそうでない者には差がないことが示された(Q3)。また、最も親しいパートナーとの関係は、平均で1年持続しており、現在も週に平均して7時間程度、彼らと一緒にMOOを楽しんでいるという。
 次に、パートナーとの関係性を調べたところ、仕事の同僚・知りあい・友人・親友・恋人のうち、親友が最も多い40%、次いで友人と恋人が26%となっており、仕事仲間と知り合いは、それぞれ5%に満たないということがわかった(Q2)。比率の高かった友人・親友・恋人の3群で比較を行ったところ、MOOへアクセスする時間と、そのパートナーとコミュニケーションする時間が恋人・親友・友人の順に多いことがわかり、パートナーが恋人である者は毎日、親友なら週に3・4回、友人は1・2回程度、接触していた。また、パートナーの性別は、自分と異性にあたる者が有意に多く、その比率はそれぞれ恋人84%、親友90%、友人74%となっており、こうした現象はユーザーの年齢や既婚、未婚に関わりなく見られたという。
 以上から、MOOでの関係形成は非常に盛んに行われていること、またそれは恋人などかなり親密なものも多く含むことが示された。このことは、コンピュータを介したコミュニケーションが、単なる関係形成に寄与するばかりでなく、より質の高い関係をも形成するのに役立つ可能性を示唆するという点で、注目に値するものである。
 また、関係を形成していた者の多くが、最も親密なパートナーを異性の友人としていた結果も興味深いものであった。パークスらはこれに対する解釈の1つとして、コンピュータを通じたコミュニケーションが、オフラインの生活で機能している同性の友人に対する規範などを取り払ったためではないか、などと推測しているが、こうした結果はニュースグループを対象とした研究ではみられていないため、その解釈および結果の安定性については更なる検討が必要と思われる。

(2)関係発達の程度
 2つめの質問は、(1)で記述されたMOOでの関係の質が、その他で形成された関係と異なるかを比較するものであった。比較対象としたのは、ニュースグループおよびオフラインで形成された関係であり、比較次元には関係発達の程度尺度を用いた。これは、表2に示される7次元から構成されており、関係の深さや相手への関与、与える影響の程度などといった内容を含んでいる。まずニュースグループで形成された関係との比較では、全ての次元に関してオフラインおよびMOOで形成された関係の方が、ニュースグループのそれよりも高いことが示された(Q5)。また、オフラインの関係との比較では、相互依存、予測/理解、関与についてはMOOよりもオフラインの方が高かったものの、広さ・深さ・コード変化に関しては差がないことがわかった(Q4)。
 これらの結果は、MOOでの関係はニュースグループよりも発達しており、またオフラインの関係にも劣らない深さを持っているということを示している。パークスはMOOのこうした対人関係形成における強さに関して、コンピュータを介したコミュニケーションの持つ自己開示の容易さなどが影響しているのではないかと指摘している。また、ニュースグループにおける関係の質が低かったことに関しては、ニュースグループがMOOよりもコミュニケーションをリアルに感じさせない性質を持つからであるとして、例えば非同期的なコミュニケーションや、特定のトピックを持つこと、コミュニケーションチャネルが一つであることなどを挙げている。先述したように、ネット上で形成される対人関係は概して絆が弱いと指摘されてきたが、これらの差異の影響を検討することで、より強い関係を築く方法についても示唆が得られるかもしれない。
 
(3)他の媒体への移行
 3つめの質問は、MOOでの関係形成に際して、他のメディアも使用しているのかどうかについて検討したものである。まず、ネット以外の媒体でコミュニケーションを行った者は92.7%にものぼり、媒体別にはEmailが80%、電話66.8%、手紙やカード92.7%、手紙で写真交換40.5%となっていた(Q6)。また、MOO上のパートナーと対面した者は全体の37.7%であり、関係性別では恋人・親友・友人でそれぞれ58、35、23%という割合であった。パートナーと対面するまで、電話や手紙などの媒体を一つも通さなかった者は8%しかおらず、66%もの人が、対面までに前述の3つあるいはそれ以上の媒体を用いていた。中でも、電話で話し、オンラインあるいはメールで写真を得るというように、音声と映像を交換してから対面した者は61.4%にものぼっていた(Q7)。
 これらから、MOOのユーザーの多くが、MOOの他にも様々なメディアを使用していること、またその媒体使用には決まったルートがあることが示された。パークスらはこうしたルートを示すことは、コンピュータあるいはネットを介して形成された関係が、どのように発達していけばいいのかを示す道しるべともなりうると指摘しており、実際これらを参考にする人も今後多く見受けられるかもしれない。ただ、一見するとこの結果は、先の(1)や(2)で示された結果を否定するものと捉えられる可能性があることに注意する必要があるだろう。というのは、先に示した関係の強さというのが、実はこれらのメディア使用によってもたらされたもので、MOOは単なる関係形成のきっかけを与えたにすぎないとする解釈が成り立つからである。実際、今回の研究ではこの解釈を否定することはできず、親密な関係のどこまでがMOOで育まれたかは曖昧である。しかし、(1)で明らかにされていたとおり、ユーザーは最も親密な相手と週に平均して7時間もコミュニケーションするということがわかっているため、パートナーとのコミュニケーションの多くがMOOでもなされているということを考慮しておく必要があるだろう。今後は、こうした曖昧な点を明らかにするために、様々なメディアの使用頻度も合わせた調査を行うとか、関係形成の深まりを他のメディア使用も交えて時間軸上で追っていくような調査を試みるなどして、MOO独自での関係形成に対する強さを検討していくことが必要であろう。


■まとめ
 以上、パークスらの研究は、インターネット、またはコンピュータを介して形成された関係について、多くのことを明らかにした。特に、MOOでは異性の友人関係が多く形成されていたという傾向や、MOOで形成された関係が、オフラインのそれと同等の深さを持っていたとする結果などは興味深く、更に深く追求することが望まれる。ただ、今回の調査はMOOにそれほど思い入れがない人や、好意的でない人などの回答が含まれていない可能性があること、またMOOユーザーは比較的インターネット経験が長い人が多いということから、特殊な集団に所属する者の回答だった可能性もあり、他の全ての人に当てはまる結果ではない可能性がある。今後は、そうした点も改善しつつさらに検討を重ね、オンライン上でよりよい関係形成が行える方法を模索することが望まれる。

<引用文献>
土橋臣吾(1999)コンピュータ・ネットワークのコミュニケーション論 ―CMC研究およびその背後仮説の批判的検討― 社会情報学研究,
 3, 113-126.
Parks, M. R. & Floyd, K.(1996). Making friends in cyberspace. Journal of Communication, 46, 80-97.
Parks, M. R. & Roberts, L. D.(1998). Making Moosic: the development of personal relationships on line and a comparison to their
 off-line counterparts. Journal of Social and Personal Relationships, 15(4), 517-537.

表1.パークスらの研究での検討点

<関係形成>

回答

Q1.MOOのユーザーのうち、どのくらいの人がオンラインで関係を形成しているか

93.6%

Q2.それはどのようなタイプの関係か

恋人・親友・友人。親友が最も多い

Q3.MOOのユーザーのうち、オンラインでの関係数が多い人と少ない人の間には、どのような差異があるか

差はみられない

<関係発達の程度>

 

Q4.オンラインとオフラインの関係は、その発達に関してどのように違うか

広さ、深さ、コード変化においては差がないが、それ以外についてはオフラインの方が発達している。

Q5.ニュースグループで始まった関係とMOOで始まった関係は、その発達レベルにおいてどのように違うか

全ての次元において、MOOの関係の方がニュースグループよりも発達している。

<関係形成における情報媒体>

 

Q6.MOOから始まった関係は、他の状況に移行しているか?

している。(メール、電話、手紙やカードなど)

Q7.その移行に決まったパターンはあるか?

音声と映像を得てから対面へ

 

 

表2.関係発達の7次元尺度

次元

内容

1.相互依存

重要な決断に相手の意見を参照するなど、互いに依存し、影響しあう程度

2.広さ

コミュニケーション内容や手段が、多様である程度

3.深さ

相手への親しみや、相手との会話内容の深さの程度

4.コード変化

自分たちだけにわかる特別なサインを作るなど、会話に関わらず相手の本心を読める程度

5.予測可能性/理解

状況に関わらず相手の気持ちを理解する程度

6.関与

相手との関係の重要性、関係維持への欲求の程度

7.ネットワークの収束性

相手を他に紹介するなど、自分と共通のネットワークに参入させる程度