内藤まゆみ 1999 NEW 教育とコンピュータ, 15(11), 54-55.

いつでもどこでも支えてくれる仲間たち

 −インターネット上の自助集団研究から−


お茶の水女子大学大学院人間文化研究科複合領域科学専攻 内藤まゆみ



1. はじめに
 現在、インターネットは多様な分野において利用されている。臨床心理学もその例外ではなく、心理的に苦しむ人々に、インターネットを介して援助を提供する試みが盛んになされている。カウンセラーなどの専門家に加え(99年の12月号を参照?)、同じ問題に悩む仲間同士が相互的に行う援助も、インターネット上でみられるようになった。このような集団は、自助集団 (self-help group) と呼ばれ、電子掲示板やメーリングリスト、個別のメール交換などで、互いの意見や情報を伝え合っている。従来、自助集団は参加者が直接会うミーティングを中心に活動してきたが、今後さらに多くの自助集団がインターネットを利用するようになるだろう、と予測する研究者もいる (Salem, Bogat, & Reid, 1997)。
そこで、ここでは、インターネット上で活動している自助集団を紹介したい。

2. 自助集団とは
 まず、自助集団について簡単に説明しておく。自助集団では、同一の身体的・精神的問題を抱えた参加者が、その問題に関する経験や回復への希望を共有したり、励まし合ったり、具体的なアドバイスを与え合う。このようにお互いに援助を提供することが、参加者の問題を改善したり、回復した状態を維持したりするのに役立つ。また、参加者が相互に交流することで、彼らはコミュニティへの所属感を持つことができ、孤独感を軽減することができる。さらに、参加者によって活動が運営されるため、メンバーの自律性を高め、彼らはその問題のエキスパートであるという自信も高める。最初の、また最多数の自助集団はアルコール依存症に関するものであり、日本でも断酒会として知られている。現在では、薬物依存や摂食障害、エイズなど、様々な問題についての自助集団が結成され、多くの人が参加している。

3. インターネットを利用した自助集団の長所
 では、インターネットが自助集団にもたらす利点を考えてみよう。

・場所や時間を問わずに参加できる 
 地方に住んでいたり、周囲に同じ問題を持つ人がほとんどいないなどの理由で、自助集団に加わることができなかった人でも、インターネットを通して参加する機会が持てるようになった。子どもの世話や高齢者の介護などで家を空けることができなくても、インターネット上の自助集団なら自宅にいながら参加することができる。また、インターネットを使用することで、いつでも好きな時間にメッセージを読んだり書き込んだりもできる。ある自助集団の調査では、掲示板にあるメッセージのうち約31%が夜11時から朝7時に送られており(Winzelberg, 1997)、インターネットにより自助集団に参加しやすくなることがわかる。

・気に入ったメッセージにのみ返答することができる
 通常の自助集団のミーティングでは、あまり返答したくない、または興味が沸かない発言に対しても、自分の意見や感想を返さなければいけない場合もあるだろう。インターネットであれば、そのようなメッセージに無理にコメントを返す必要はない。

・他の参加者と直接顔をあわさなくてもよい
 心理的な問題により、参加者と対面する通常のミーティングに参加できない人にとって、インターネットはその活動に加わるための貴重な手段になるだろう。例えば、非常に内気であったり、大勢の前で発言するのが苦手な人は、インターネットを利用した自助集団に参加する方が容易で、効果的であろう。

・参加者が互いに親近感を持ちやすくなる。
 通常の自助集団では、異性や社会的地位が高い人に対しては気兼ねしてしまい、思ったことや言いたいことを率直に話すことができない時もある。しかし、インターネットでは、相手が意図的に表現しない限り、相手の性別や社会的な地位などを知ることはなく、そのような違いを感じにくくなる。むしろ、話題が参加者たちが持つ問題に集中するために、「同じ問題を抱える仲間」という親近感を高めやすい。通常の自助集団とインターネット上の自助集団を比較した研究では、インターネットを介した方が、より個人的な経験や事柄を伝えることが多く、参加者の間の親近感が促進されると報告されている (Salem et al., 1997)。
 このように、インターネットは自助集団の参加者に多くの利益をもたらしている。次に、インターネット上の自助集団は、参加者が問題を克服するのにどのように役立っているのか、King (1994) の研究から探ってみよう。

4. インターネット上で活動している自助集団の研究
 方法
 この研究では、アルコール依存と薬物依存の問題を扱う自助集団を取り上げた。2つのインターネットプロバイダー (ProdigyとUseNet) で活動している自助集団の参加者を対象に、メーリングリストやメールを通して質問項目を送った。質問は、自助集団に参加する頻度、自助集団で知り合った他のメンバーに電話や手紙を送ったり、直接会ったりすることがあるかどうか、自助集団に参加して役に立ったと感じたかどうかを尋ねる項目からなる(表1参照)。また、アルコール依存の自助集団が掲示板に送ったメッセージの数や内容が、それぞれ30日ずつ、4ヶ月の間隔で2回調査された。

 結果
 質問に対して、男性39名、女性31名、不明1名の計71人が返答した。回答者の平均年令は約38才であり、60%が既婚者であった。この自助集団に平均7.5ヶ月、1週間に平均3.8時間の頻度で参加していた。アルコールや薬物をとっていない期間は、平均68ヶ月であった。回答者は、概して自助集団に参加してかなり症状がよくなったと答えていた。58%の回答者が、他の参加者と電話や手紙、または直接会うなどのコンタクトをとっていた。 次に、質問項目間の関連を分析したところ、自助集団を使っている期間が長いほど、他の参加者と電話したり直接会ったりしており、アルコールや薬物をとっていない期間が長かった。また、自助集団に参加して症状が改善したと報告した人ほど、1週間の使用時間が多く、掲示板を使っている期間が長かった。
 掲示板に関する初めの調査では、473個のメッセージがあり、それに対して3179個の返答があった。次の調査では、649個のメッセージに、4750個の返答が送られており、調査期間中に掲示板の使用量が32%上昇していた。メッセージには、自助集団の援助を評価する意見が多くみられた。例えば、ある参加者は、通常のミーティングではいつも孤独であり、そこで援助を求めることができなかったが、インターネットを通して参加すると安心感が得られると述べている。

5. まとめと今後の課題
 これらの結果から、インターネット上で活動する自助集団を頻繁に、かつ長く使うほど、アルコールや薬物への依存に改善がみられることが示された。また、参加期間の長い人は、アルコールなどをとらない期間が長いだけでなく、他の参加者と電話で連絡をとったり、直接会ったりしていることも示された。ここから、インターネット上の自助集団は、参加者をアルコールや薬物から遠ざけるに役立ち、さらに、親しい友人を持つ機会も提供すると考えられる。アルコールなどの依存症の回復には、他者からの心理的な援助が重要な役割を担うといわれている。自助集団を通して友人ができることは、参加者にとって大きな利益になるだろう。メッセージの内容をみても、参加者がこの自助集団に満足していることがわかる。したがって、インターネットを利用した自助集団は、従来のものと同様に、参加者が問題を克服し、良好な状態を維持するのに効果的であるといえよう。 しかし、以下の述べるように、今後の課題もいくつか残されている。

・メッセージに返答がない場合の対策
 先の研究でも、再び依存症になることへの不安など、一般的な内容には返答が少なく、具体的なアドバイスを求めるメッセージに返答がされやすかった。他の参加者からの励ましを必要としている人に、1つも返答が返ってこなかったら、彼または彼女は再びアルコールなどに手を出すかもしれない。このような場合の対応策を、集団の参加者や運営者、研究者によって考えていかなければならないだろう。

・インターネットによる自助集団の効果の検討
 ここで紹介した King の研究も含め、インターネットを利用した自助集団に関する研究のほとんどは、調査の対象者が通常の自助集団にも平行して参加している (king & Moreggi, 1998)。したがって、インターネット上の自助集団を単独で使用しても効果があるのか、結論づけることはできない。これまでの研究では、ここで紹介したKingと同様に、インターネットによる自助集団の効果を支持する結果が提示されている。今後は、インターネット上の自助集団にのみ参加する人たちを対象にした研究により、その効果を明確することが望まれる。


引用文献

King, S. A. (1994). Analysis of electronic support groups for recovering addicts. Interpersonal Computing and Technology: An Electronic
Journal for the 21st Century, 2, 47-56.(http://www.helsinki.fi/science/optek/1994/n3/king.txt で入手可能)
King, S. A., & Moreggi, D. (1998). Internet therapy and self-help groups-The pros and cons. In J. Gackenbach (Ed.), Psychology and the
internet (pp. 77-109). San Diego: Academic Press.
Salem, D. A., Bogar, G. A., & Reid, C. (1997). Mutual help goes on-line. Journal of Community Psychology, 25, 198-207.
Winzelberg, A. J. (1997). The analysis of an electronic support group for individuals with eating disorders. Computers in Human
behavior, 13, 393-407.

表1 インターネット上の自助集団の参加者に送られた質問項目
1.あなたは、どのくらいの期間、この掲示板を使っていますか。
2.あなたは、1週間のうちに何回この掲示板を使いますか。
3.あなたは、普通何分くらいこの掲示板を読んだり、書きこんだりしますか。
4.あなたは、今までに他の掲示板の参加者と、電話や郵便、または直接会うなどして、
連絡をとったことがありますか。
5.あなたは、この掲示板を使って、どのくらい症状が改善したと感じますか。
(「全く感じない・少し感じる・かなり感じる・とっても感じる」の中から選択)
6.あなたは、どのくらいの期間、アルコールや薬物をとらずに過ごせていますか。
7.あなたは、1週間のうちに何回くらい、通常のミーティングに参加していますか。