鈴木佳苗 1999 NEW 教育とコンピュータ, 15(8), 60-61.

インターネットを利用した外国文化・外国語学習


お茶の水女子大学大学院人間文化研究科複合領域科学専攻
鈴木 佳苗



 近年、インターネットは、外国語の学習に有用な教育ツールとして注目され、既にそのプラスの効果が報告されている。一般的に、外国語学習には、対して主に2つのツール(電子メール、ナビゲーションツール)が用いられてきた。いくつかの研究では、電子メールを利用した結果、学生の言語能力が向上することが示されている12。また、文化的情報を検索するために、ナビゲーションツールを用いることは、外国語の信頼できるテキストを読み、解釈し、分析する機会を学生に与えることも報告されている3。このように、インターネットの利用は、外国語の学習に非常に推奨されるものである。
 このような外国語学習の過程では、文化的知識が重要な役割を果たすことが指摘されてきた。例えば、Crawford-Lange & Lange(1984)4は、第2外国語を母国語としている文化(Second culture: 以下C2と略す)は、第2外国語(Second language: 以下L2と略す)の獲得と切り離すことができないと述べている。最近では、文化的知識を得るためにも、インターネットが盛んに利用されており、人々は、電子メールを利用して、世界中のネイティブスピーカーと、即時に異文化情報を交換したり、最新の情報を探索したりしている。しかし、外国文化の学習に対するインターネット利用の効果を検討した研究は非常に少ない。
 外国語文化の学習に関しては、従来より、経験的学習が推奨されてきている。経験的学習が、外国文化の学習に効果的であるならば、インターネット利用の効果も期待できるだろう。また、インターネット利用は、外国文化と外国語を同時に経験的に学習することを可能にする点で、有用であると思われる。今回は、アメリカの大学生のスペイン文化(C2)・スペイン語(L2)学習に対するインターネット利用の効果を報告した研究を紹介する5。この研究では、C2とL2を同時に経験的に学習するための方法として、文化学習プロジェクト(Cultural Project)を実施している。文化学習プロジェクトは、インターネットの具体的な利用法に関する示唆に富んでいるため、まず、このプロジェクトの概要から説明しよう。

文化学習プロジェクト
 文化学習プロジェクトは、大学のスペイン語講座で実施されたため、「スペイン語学習の過程では、スペイン系の文化知識を増やすことが非常に重要であるため、スペイン、メキシコ、他のラテンアメリカの国の文化的側面を調べる研究プロジェクトを行う」という説明の下で行われた。プロジェクトの最終的な目標は、各自の関心のある特定のスペイン系文化のトピックへの意識や理解を発達させ、言語能力を上達させるのを助けることである。具体的にな手続きは、以下の通りである。

1)トピックの選択
  スペイン、メキシコ、他のラテンアメリカの国の文化的側面について、被調査者が最も関心のあるトピックを選び、その中でさらに3つの主要な側面を挙げる。

2)2つのインターネットツール(電子メール、ナビゲーションツール)による情報収集
 インターネットツールの使用に関しては、プロジェクト前に、研究者、ティーチングアシスタントが、学生に、Netscapeなどを用いてインターネットリソースにアクセスしたり、検索、ダウンロード、アップロードする方法を3時間訓練した。時間外にも、インターネットが快適に使えるようになるまで、時間をかけるように指示した。
 @電子メール 学生は、インターネットで自分のプロジェクトに関連したソースを検索し、同級生やネイティブスピーカーと電子メールでコミュニケーションする。学生の文化学習プロジェクトの遂行を助けるために、3、4人の学生に1人のネイティブスピーカーがつき、文化的な資料を検索するのを手伝ったり、文法的な誤りを修正したり、学生達の書いたものについてフィードバックを返したりする(少なくとも1週間に1回)。
 Aナビゲーションツール 学生は、スペイン語のWebサイト(他にもNetscape、Listserveの利用が可能)から資料を選択する。

3)エッセイと最終版レポートの作成
 先の資料を基に、スペイン文化に関連した3つのエッセイを書く。各エッセイにつき、少なくとも3つの参考文献を用いる。電子メールでインストラクターに送り、フィードバックに基づいてエッセイを改訂する。

4)口頭発表 
 口頭でのスキルを高めるために、エッセイで論じた文化的側面についての口頭発表を課す。各自は、議論、アイデアの交換、積極的学習のために、発表後、少なくとも6つの質問かコメントを提出するよう求められる。

5)インストラクターによる研究の評価 
 研究の評価は、5つの項目(3つのエッセイ、電子メールでのメッセージ、支援情報、最終版レポート、口頭発表)、各20%の得点配分とし、各項目は、その内容、構成、言語スタイル、適切さによって評価された(「非常に良い=20点」「良い=15点」「普通=10点」「悪い=5点」)。

調査概要
 調査は、スペイン語中級講座の124名の大学生を対象とし、アメリカ合衆国北東部の小規模大学で行われた。1994年秋に、事前調査として、コンピュータ経験に関する調査を行ったところ、多くの学生が、コンピュータネットワークに対して高い関心を持っていることが示された。
本調査は、1994年秋から1996年春に行われた。被調査者は、文化学習プロジェクトへの参加を求められた。プロジェクト終了後、学期末に、被調査者は、質問紙(表1)とインタビューを通して、「プロジェクトに対する評価」を行った。インタビューは、個人か2−3人の集団(類似したトピックを選んだ学生)で10−15分間行われた。プロジェクトの中で、最も貴重で、興味深く、困難な側面を説明し、電子メールやインターネットでの経験を描写するように求め、全てのインタビューは記録された。


調査結果
1)インターネット利用の効果
 @電子メールの効果 Q2、Q7より、電子メール利用は、学習に効果的で、楽しいものであることが示唆された。
インタビューでは、学生達が、L2の獲得において、C2が重要であることを意識し始めていたことが示唆された。電子メールによって文化的知識を獲得することにより、学生達は、確かな資料を通して、文化差を観察し、理解し、比較し、探索することができた。また、電子メールの環境が、友好的で、学習者の不安を低減させることも示唆された。その結果、学生達は、従来の教室場面でよりも、自分の考え・意見を表現す
ることができた。
 しかし、一方で、電子メールの使用を快適だと思わない学生もいた。これは、プロジェクト前にコンピュータネットワークやワープロを使ったことがない生徒に多く見られた。
 Aナビゲーションツールの利用の効果 Q4より、ナビゲーションツール利用は、有用であることが示唆された。学生達が選んだトピックには、メキシコの休暇、食生活、スペインの社会的生活、画家、キューバの音楽、野球などがあったが、彼らは、オンラインの世界中からの最新情報を用いて検討を行い、通常の授業よりも、独自に、深くスペイン系文化の特定の側面を調べていた。
 学生達は、当初、指導や補助を必要としたが、インターネットで文化的情報を探すのを楽しいと報告していた。中には、プロジェクト前の3時間の訓練が十分でなく、プロジェクトにインターネットを使用するのに不満が募ったと言う者もいたが、Q8では、多くの学生が今後もインターネットを使いたいと回答していた。

2)多重学習能力の強化
 Q5より、文化学習プロジェクトで、学生達の研究能力と技術力も高まったことが示唆された。
 インタビューの結果、学生達は、文化学習プロジェクトでの原稿執筆や改訂が、後の口頭発表や最終的なレポートの準備として役に立つと信じていた。また、類似したトピックを他の発表者から聞く機会のおかげで、スペイン文化の特定の側面をより理解したり、聞く能力が強化されたり、語彙知識が増えたと述べていた。情報を選択し、組織化し、分析し、要約することによって、認知能力は高まることから、こうした教育は、多重学習能力を伸ばすのに効果的であると言えるだろう。

3)学生の態度と動機づけへの効果
 インタビューで、一部の学生は、ネイティブスピーカーともっと話したり、スペイン系文化をより深く学習するために、スペイン系の国への旅行や留学、大学でのスペイン語クラブへの参加に関心を示していた。学生達は、言語獲得の一部として、文化を学習することを楽しいと感じていた。

4)外国文化・外国語学習に対する効果
 Q1、Q6、Q9より、文化学習プロジェクトが文化的知識の増加や、外国語学習に効果的であったことが示
唆された。


今後の課題
 今回紹介した研究では、インターネットを利用することにより、学生は、C2とL2両方を経験することができた。この研究は、一連の手続きが非常に明確であり、その後の口頭発表の効果も含めて、方法論的示唆に富んでいるため、今後、各学校で総合学習や英語教育などに利用できる可能性もある。また、従来、外国文化の学習では、評価基準が曖昧であることが問題であったが、今回紹介した研究は、その点も明確に示している。
 しかし、今後検討すべき点も残されている。第1に、インターネット利用の効果を、客観的に測定する必要がある。「プロジェクトに対する評価」の質問は、主観的なものであり、外国文化への知識や外国語能力など、実際の達成を測定することが望まれる。第2に、インタビュー調査をより詳細に分析し、効果的教育方法への示唆を得ることである。この研究の結果では、インタビュー内容の紹介に留まっているが、文化プロジェクトでは、インストラクターが学生の研究を評価しているため、研究の評価が高い学生と低い学生で、インタビュー結果を分析し、インターネット利用に違いが見られるかどうか、見られる場合には、どのように利用することが効果的かが推測できると思われる。
 この研究は、語学学習の過程に重要なものとして、文化学習を位置づけているが、今後は、文化学習自体
に対するインターネット利用の効果を多面的に検討していくことも必要であろう。


引用文献
1)Janda, T. 1995 Breaking the ice: E-mail dialogue journal introductions and responses. In M. Warshauer(Ed.), Virtual connections:
  Online activities and projects for networking language learners(pp.57-58). Honolulu, HI: University of Hawaii, Second Language
  Teaching & Curriculum Center.
2)St. John, E., & Cash, D. 1995 Language learning via e-mail: Demonstrable success with German. In M. Warshauer(Ed.), Virtual
  connections: Online activities and projects for networking language learners(pp.191-197). Honolulu, HI: University of Hawaii, Second
  Language Teaching & Curriculum Center.
3)Knight, S. 1994 "Making authentic cultural and linguistic connections." Hispania, 77, 288-294.
4)Crawford-Lange, L., & Lange, D. 1984 "Doing the unthinkable in the second language classroom." In L. Higgs(Ed.), Teaching for
  Proficiency, the Organizing Principle. The ACTFL Foreign Language Education Series, 15, Lincolnwood, IL: Naational Textbook
  Company.
5)Lee, L. 1997 Using internet tools as an enhancement of C2 teaching and learning. Foreign Language Annals, 30, 410-427.

表1 文化学習プロジェクトの評価に関する質問項目

  質問項目

同意率(%)

Q1. 文化学習の一部としてのインターネット使用は、スペイン語を学習するのに

     非常に役立った。

  81.5

 

Q2. 電子メール使用は、書く能力を上達させたり、自分のアイデアをより上手に

     表現するのに役立った。

  92.7

 

Q3. 文化学習プロジェクトにとって、インターネット使用は快適であると感じた。

  51.6

Q4. プロジェクトにとって、インターネットは非常に有用であると思った。

  60.6

Q5. インターネットで文化的情報を検索する過程で、私の研究能力と技術力は

     高まった。

  63.8

 

Q6. このプロジェクトの過程で、私のスペイン文化の知識は増加した。

  81.5

Q7. ネイティブスピーカーと一緒に活動するのが楽しかった。

  53.2

Q8. これからもインターネットを使い続けていきたい。

  60.6

Q9. インターネットを他の語学の授業にも薦めたい。

  73.4

注:「非常にあてはまる−非常にあてはまらない」の5件法で回答。
    
同意率は、「非常にあてはまる」「あてはまる」と回答した学生の人数の割合である。