鈴木佳苗 1999 NEW 教育とコンピュータ, 15(2),
96-97.
インターネット利用者の増加に伴い、高等教育においても、オンライン教育に関心が持たれるようになってきた。オンライン教育は、電子メールや、ニュースグループ、WWWなどのインターネットツールを利用して行われ、従来の通信教育(遠隔地教育)に代わるもの、大学間教育を可能にするもの、高度情報化社会に対応するものとして注目されている。
アメリカでは、既にいくつか大学でオンライン教育の試みが始まっている。アメリカには、拡張的で、比較的安いコンピュータネットワークがあり、そうした状況が他国より早くオンライン大学教育の導入の実施を可能にしてきた。今後、各国で大学でのオンライン教育を新設したり、新たにオンライン専門の大学を作る際に、アメリカの例は非常に参考になると考えられる。そこで、まず、アメリカにおける、インターネットと大学教育の状況を紹介し、これまでに指摘されてきた有用性、問題点、今後の発展可能性について考えていきたいと思う。
1.
インターネットと大学教育
大学キャンパスでも、インターネットを利用した授業が行われているが、近年、「仮想大学(virtual
university)」と呼ばれる、インターネットを利用してコース履修を行う大学が見られるようになってきた。“仮想”は、“電子”と同意で用いられるが、仮想大学は、教材やサポートの電子的輸送が多いという特徴がある(但しビデオ、ラジオ、テレビ放送、CD-ROMなどの他の手段も用いられる)。仮想大学は、大学に通常ある物理的施設(図書館、講義棟、実験室、学生寮)を持たない。
仮想大学の例としては、アメリカ南西部のフェニックス大学(UOP)が挙げられる。フェニックス大学は、47のキャンパスを持ち、学生数約36000名という、アメリカで第二の規模の私立大学である。オンラインキャンパスはサンフランシスコにあり、海外からの学生50−60名を含む、約1500名が在籍している。現在は、経営学と管理学に関して、学士と修士の課程がある。各授業は、約12名の集団で行われ、5、6週間から10週間となっている。十分な人数が登録されたらいつでもコースは開始される。学生は、インターネットにログインし、討論への参加、電子メールの交換、掲示板へのアクセスを行う。[1]
このフェニックス大学の例では、受講が可能な科目は、経営学と管理学であるが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校では、生物学・化学・地学、ニューハンプシャー工科大学では物理学、リバーランド工科大学ではコンピュータネットワーキング、ノースカリフォルニア大学では数学、ヴァージニア工科大学では化学を受講することが可能になっている。[2]その外にも、新たにコースの設立を検討している大学があり、より多くの科目が受講可能になると期待される。今後は、インターネットを利用した大学間の単位交換も盛んに行なわれるようになっていくと考えられる。
2.
インターネットを利用した授業モデル
仮想大学をより理解するためには、授業でどのようなインターネットツールを利用しているのか、どのようにコースが進んでいくのかを知る必要があるだろう。Price(1996)[3]は、(1)オンラインコースで一般的に利用されるインターネットツールと、(2)授業モデルを紹介している。
(1)オンラインコースのインターネットツール
Price(1996)は、主に利用されているものとして、@電子メール、Aニュースグループ、Bコンピュータ会議、CWWW、DERICなどのデータベースを挙げている。
(2)授業モデル
図1にモデルを示した。このモデルは、1996年、テキサス工科大学で始められたオンラインガイドのコース"Introduction
to On-line Communications and
Internet"に基づくものである。このコースは、学生が、どの授業でも利用できる、あるいは、自主学習で情報を得るために用いるスキルの基礎を提供しており、応用可能性の高い、非常に有用なモデルであると考えられる。
モデルは、@学生のオンラインか郵送でのコース登録、Aコース登録後、学生にコースガイド(モデムやコミュニケーションソフトウェアの選択への助言を含む)と第一回のコースレッスンの郵送、Bコースレッスンはコンピュータファイルに貯蔵され、学生がダウンロード(冊子を送るコストがかからず、また、ページのレイアウトや印刷をしなくてよいので、インストラクターは時間の節約になるという利点がある)、Cインストラクターは宿題を電子メールで送信、Dインストラクターによる評価と、学生へのフィードバック(宿題提出、評価、返却の期間は、2週間から数日に短縮されている)、E試験の実施(自宅・職場の近くで実施)という流れになっている。
3.
有用性と問題点
仮想大学でのコースを履修した学生の多くは、自分のペースで学習できたこと、教授と直接会う機会が年に数回と少ないにも関わらず、電子メールによる相互作用を通して必要な指導を受けることができたことなどを挙げ、コースへの満足を示していた。[4]また、コース開始時と比べ、修了時ではコンピュータスキルの上昇が見られ、それが周囲の人たちにも良い影響を与えたといった報告も見られた。[5]その他に、従来の大学教育に比べ、時間的場所的制約がなく、社会人などにも利用しやすい点も有用であると言えるだろう。
教師にとっても、個々の学生からのフィードバックが得られることによって、教示や宿題が分かりやすいか、コースの内容が学生の欲求に合っているのかを判断できるという利点がある。
しかし、一方で、今後、解決すべき問題も指摘されている。主な問題点としては、(1)事務的・設備的問題、(2)対人コミュニケーションの問題がある。
事務的・設備的問題としては、@コース登録の方法(学生が大学に来なくても登録できるような手続きを作成しなければならない)、A授業料(キャンパス以外の学生が施設使用料を払う必要があるのか、コンピュータアクセスに対する特別料金を払う必要があるのかを決定しなければならない)、B授業時期(コースが時間外、学期外に開講できるのかを決定しなければならない)、C教授料(オンラインコースを通常の講義の一部と考えて通常の教授料とするのか、特別講義として付加的料金をつけるのかを決定しなければならない)、D図書館の問題(オンラインで利用できる図書館を持たない大学がある)がある。
対人コミュニケーションの問題としては、通常の授業で見られる会話の手がかりの欠如、インストラクターと他の学生との個人的接触がないことへの不満が挙げられる。今後は、技術の進歩に伴い、図形、写真、音声、動画を送る電子メールが普及し、こうしたコミュニケーションの問題は改善に向かうであろう。[6]
4.
今後への期待
インターネットを利用した高等教育は、今後ますます普及すると考えられ、学生に新たな学習の可能性が広がっていくことが期待される。大学間の単位交換制度が進んだり、さらには、国境を越えた教育の可能性もある。また、時間的場所的制約が改善されたことにより、生涯教育への道も広がり、コンピュータスキルの上達から、より職業的に役立つ教育が実践されるようになるだろう。学部だけではなく、今後は、大学院教育の充実、電子図書館システムの充実も課題となっている。
引用文献
1. Small, M. 1997 Virtual university
libraries:a report of ALIA's 1996 study grant. The Australian Library Journal,
46, 409-419. 2. Fortenberry, N. L. & Powlik, J. J. 1997 What's DUE
engineering on-ramps to the information superhighway. Computer Applications in
Engineering Education, 5, 281-283.
3. Price, R. V. 1996 A model for the
on-line college-level guided study course. Techtrends, 41, 39-42.
4. Hansen,
C. & Lombardo, N 1997 Toward the virtual university:collaborative
development of a web-based course. Research Strategies, 15, 68-79.
5.
Hesser, L. A. & Kontos, G. 1997 Distance education: Applications in a
masters and doctoral program. Journal of Educational Technology Systems, 25,
249-71.
6. Sproull, L. & Kiesler, S. 1991 Computers, networks and work.
Scientific American, 265, 116-123.
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