新しいメディアを利用した将来の教育放送および教育サービス
−英国チャンネル4のポール・アシュトン氏のインタビューから−
坂元章
イギリスのチャンネル4におけるインタビューで、デジタル放送やインターネットなどの新しい技術の教育利用に関する、現在あるいは今後の取り組みについて聞き取ることができたので、ここではその概要を紹介する。インタビュー回答者は、チャンネル4学校番組部門の発注編集者(commissioning editor)であり、教育番組制作の企画をし、プロダクションに制作を依頼する立場にある人物である。世界の優れた教育番組に与えられる、NHKの日本賞を授与された経験もある。インタビューの回答は、よく構造化されており、また、インタビューの様子を生き生きと伝えるために、インタビューの回答は、若干の解説とともに、なるべく加工せずに記述するようにした。
(1) デジタル放送の利用
近年、サービスが始まっているデジタルテレビ番組について、チャンネル4としては「何か計画があるか」を質問したところ、3ジャンルの番組の放送を考えているという答えであった。1つ目は映画である。
計画だけはあります。チャンネル4はすでに、デジタルチャンネルを利用し始めており、現在、夜の6時から翌朝の6時まで映画−ただし、教育とは関係ないものですが−を流しています。チャンネル4は、現在、視聴者が、こうした一晩12時間の映画放送を有料で見るかを調べ始めようとしているところです。ただし、これらは特別な映画です。チャンネル4は、知性を重視しているところがあって、一般大衆の間で大ヒットするような映画ではなく、難解で知的な映画を放送するということで免許状を与えられています。チャンネル4は、このようにデジタルテレビ−それは双方向性を持つものですが−に踏み出し、映画クラブを作っています。現在は、1ヶ月6ポンドの費用がかかり、加入者は10万人と少ないですが、それでも、合計すれば、かなりの金額にはなります。
アシュトン氏は、2つ目として競馬を挙げた。
2番目に計画しているのは、まだ決定ではありませんが、英国で非常に人気のある競馬です。チャンネル4は毎年、多くの主要な競馬の放映権を与えられています。そこで、双方向性が導入されたならば、デジタルテレビを通じて競馬の最中にお金を賭けたり、専門家に質問できるようになるのではないかと考えています。わざわざ本を読んだり電話をする必要はありません。すべてテレビで行うことができます。競馬を見ながら、お金を賭け、情報を入手し、お金を賭けている別の人と意見を交換することさえできるのです。
そして、アシュトン氏は、最後の3つ目として教育番組を挙げた。
デジタルテレビでは教育が最後になってしまいます。採算が合わないからです。私は、局内で毎日、双方向性は教育にとって最も重要な要素であると言っています。しかし、これによってチャンネル4が利益を得る方法を考えるのは非常に難しいことです。学校番組部門はお金を使うばかりです。だから将来は3本立てで、夜は映画、昼は競馬(計画にすぎませんが)、そして朝の午前中は教育にしたらどうかと考えています。
しかし、どのような教育がよいでしょうか。
アシュトン氏は、3つの教育番組を考えていると言う。
現在、戦略グループのメンバーが毎週集まって、午前中の番組の内容について話し合っています。
まず第1に、親、とくに子供を持つ母親を対象に、育児や教育など子供のあらゆる問題に関する番組を、午前中の3、4時間で行うというアイディアが出ています。双方向性を利用することによって、子供の薬や、子供の活動など、視聴者が知りたい内容を自由に見つけ出せます。これが1つの案です。
また、2番目として、午前中の時間をすべて、科学、とくに一般人向けの科学に充てるという案もあります。科学に明るいということ、すなわち、科学の詳細な部分を知るのではなく、教養のある人間にふさわしい科学の知識を持つこと、これは非常にすばらしいことであると私たちは思っています。
3番目は、チャンネル全体を健康番組に充てるという案です。自分や高齢者や子供の健康に関する悩みについて電話をかけてきた視聴者に対して、常任の医師が診断を行い、スタジオで電話を受けるスタッフと共に、治療や薬などのアドバイスを行います。
最後に、アシュトン氏は、次のことを指摘している。
双方向性が導入されれば、直ちに、単なる番組ではなくサービスとなって、より多くの人材が必要になります。番組を作る場合も多くの人材が必要ですが、完成すれば、その人たちは必要ではなくなります。ところが双方向性がある場合、双方向性を適切に使うのであれば、常にそこに人がいなくてはなりません。私たちはようやくこのことに気づき始めました。デジタルテレビで双方向的な教育サービスを行うには、多数の人材が必要なのです。
(2) インターネットの利用
チャンネル4はこれまで、教育番組を多く提供してきたが、来年からは、放送番組だけでなく、インターネットを利用した教育サービスも大規模に行っていく予定であるという言う。この点についてアシュトン氏の話を紹介する。
来年は、教育的な支援を提供する手段としてインターネットに大きく進出します。よって、私たちは、もはや教育番組だけを扱うのではなく、教育サービス全体を扱うことになります。番組は、サービスの一部です。
インターネットを利用して、9月から宿題のサービスを行う予定です。子供がチャンネル4のウェブサイトに来て、「宿題のこの部分が分からないのですが」と質問し、毎晩こちらで待機している先生のチームがそれに答えます。リアルタイムで答えます。夜6時から9時半までの間に、100人の質問に答えられます。子供はウェブサイトで質問し、こちらはEメールで返答します。
アシュトン氏は次のように続けている。
サービスの対象は、宿題をしなければならないすべての子供で、9才から18才くらいまでになりますが、ところでここに1つ秘密があります。10000 人から質問が来たとすると、100人は答えがもらえますが、それ以外の子供はみんながっかりすることになります。しかし、1日に100個の質問に答えれば、1週間で500個、1ヶ月で2000個、3ヶ月で6000個の回答が生まれます。実際のところ、子供が質問できる問題の数は、6000個以下でしょう。よって、3ヶ月後には、質問が来たら、先生は以前に同じ質問がないかどうかを、その6000個の中から調べます。そうすると、たいていの質問は、それまでの6000個の中に含まれており、その質問に対して多数の解答、場合によっては10個前後の解答がすでに用意されているでしょう。このため、僅か3ヶ月で、子供の大半が必要なものを、アーカイブの中から見つけられるようになり、先生が生で答えるのは、少数の新しい質問だけになるでしょう。また、新しい質問も次第に少なくなります。私たちはこのように期待しています。
また、チャンネル4は民放であるので、このサービスによって利益があるかどうかは重要な問題であると考えられる。そこで、それについて質問したところ、次のような答えであった。
これは無料サービスです。チャンネル4は民放で、テレビコマーシャルを唯一の収入源としています。しかし、チャンネル4は、無料で公共サービスを行うことを政府から義務づけられており、学校向け番組は、チャンネル4の最大の仕事です。チャンネル4は、広告によって、毎年数100ポンドの利益を得ることを許されていますが、それは返さなければなりません。チャンネル4の番組や副読本などは学校に無料で提供されますが、1年間に1200万ポンドかかります。インターネットで行うサービスも無料になります。
また、予算については次のようであった。
予算は、9月から来年6月までに25万ポンドかかります。これは僅かテレビ番組1本分の金額で、主に先生の給料に充てられます。その他はすべて、非常に安く済みます。
(3) 未来の教育テレビ番組
アシュトン氏は、コンピュータなどの新しいメディアがますます発展することに伴って、未来の教育番組のあり方は変化し、また、それには、2つの異なる方向性があると考えている。1つ目の方向性については以下のように述べている。
今日では、テレビによってではなく、双方向的なコンピュータサービスによって提供される教材が増えつつあります。このことでテレビ番組は自由になります。テレビはもうそれほど多くの情報を提供する必要はありません。すべての情報が、他の方法、すなわちコンピュータを通じて入ってくるので、テレビ番組は、子供に刺激、楽しみ、想像、興奮を与える役割だけを担えばよいようになります。テレビで歴史を詳しく説明する必要はなく、面白い歴史を創造すればよいのです。
テレビが興味を刺激し、デジタルサービスが確実な情報を提供する。これが1つの可能性です。この傾向がさらに進むと、個人的、社会的な話や人間的な話に関するテレビ番組が増えます。これは、コンピュータにはできないからです。物語や人物について語ることがテレビの強みとなり、情報はテレビの強みではなくなるでしょう。コンピュータのほうがはるかに多くの情報を提供できるからです。
もう1つの方向性については、以下の通りである。
もう1つの可能性は、最初のものとは全く異なったもので、どちらが実現するのか分かりません。
それは、テレビ番組の代わりに、テレビ映像の小さな断片が作られるようになるという可能性です。例えば、3分間の火山が活動している映像を作ります。ただ、火山が活動している映像をいくつか撮り、それらを合わせ、「本があるので、これらの動く映像はその一部として見てください」と言って先生や生徒に渡します。個人的には好きなアイディアではありませんが、非常に重要なものです。
現在はまだ、コンピュータの画像の質が悪いのですが、2、3年後にはDVDで非常にきれいな画像を見られるようになり、そうなれば、人々は、番組ではなくセクションを求めるようになるでしょう。私はこのサービスを百科事典として利用しようとしています。
アシュトン氏は、本を見せながら、チャンネル4が作っている、そうした映像教材の例を、具体的に説明した。
このページを見てください。これらは番組ではなく、科学の実験やプロセスを記録したものです。これをテレビ番組として見たら退屈ですが、先生にとっては非常に便利で、生徒にその場で適当な映像を見せることができます。また、実験を実際に行うのは、費用がかかりすぎたり危険な場合があります。
こちらは、宇宙望遠鏡から撮った映像です。きっと日本にも同じようなものがあるでしょう。これらは番組ではなく、本当にただの映像で、説明の声が入っているだけです。
もう1つだけお見せしたいものがあります。この本は、私の今年のもので、この映像は、ある科学番組のものです。先ほど述べたように、テレビ番組はもはや情報を提供する必要はありません。この番組は質問だけで構成されており、映像に対する説明の代わりに、何が起きているのか尋ねる声が聞こえます。太陽の映像と共に、「あれは何?」という子供の声が聞こえます。さらに、「どうしてあんな炎が出ているのかな」「どのくらいの大きさなのかな」「どのくらい遠くにあるのかな」「どうして燃えつづけているのかな」「熱いのかな」というように次々に質問が発せられ、それに対する答えは1つもありません。テレビはただ、このように多くの情報が存在しているということを伝えます。テレビ番組にできるのは、多くの情報を与えることではなく、適切な質問の仕方を教えることです。私はこうしたテレビの役割に大いに期待しています。
(4) 結 び
以上のように、アシュトン氏は、デジタル放送、インターネット、コンピュータなどの新しい技術を教育放送や教育サービスにどのように生かしていくかについて、すでにさまざまに検討しており、実用化を進めている。興味深いアイディアが豊かにあり、日本の教育放送界にとっても参考になる部分があるのではないかと思う。
なお、アシュトン氏の前職は、中学校の教員であり、こうした教育の専門家としての経験が豊かなアイディアの創出に結びついているように感じられた。日本では、こうした人事はふつう行われないように見えるが、このような人材活用の仕方をもっと取り入れてもよいのではないかと思われた。
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