子どもを取り巻くテレビゲームとインターネット

−光と影−


坂元 章

(お茶の水女子大学)



教育学研究, 68(1), 22-24, 2001.



 近年では、青少年による凶悪犯罪、生徒・児童の不登校や学校不適応など、子どもの心の問題が目立っており、その原因として、子どもを取り巻いている新しいメディア――テレビゲームとインターネット――による悪影響が指摘されている。しかし、これらのメディアには、こうした「影」の部分だけでなく、子どもの生活における「光」の部分についても豊かな可能性がある。ここでは、これらの光と影に関する研究や実践の動向について簡単に説明し、影の部分による問題を避けながら、光の部分による恩恵を享受するためには、情報倫理やメディアリテラシーの教育が重要であることを述べる。



1.メディアの影

 テレビゲームが子どもの発達に悪影響を与えるとする懸念は、従来から多くの側面に関して見られている。これまでの研究では、暴力性と学校嫌いについては、それに対する悪影響を支持する知見が得られている。

 暴力性に関する懸念は、ユーザーがテレビゲームの中で暴力行動を学習し、現実場面でもそれを出してしまうのではないかなどの心配から生じている。これまでの実験研究やパネル研究の知見によれば、暴力性に対する影響は否定されず、とくに、暴力行動に対する報奨性が強いもの、映像や操作の現実性が高いものは、ユーザーの暴力性に影響を与える可能性があるように見える。

 学校嫌いについては、小学生と中学生のパネル研究によって悪影響を支持する研究が出されている。ただし、これは、級友との関係の悪化によってもたらされているものではなく、おそらく、テレビゲームの魅力によって、相対的に学校の魅力が低下したことによるものではないかと推測される。

 なお、テレビゲームが、引きこもりなど子どもの社会的不適応を招くことがよく懸念されるが、これまでのところそれに対する支持は見られていない。

 一方、インターネットの悪影響については、研究による支持があるのは、社会的不適応と情報倫理観に対する悪影響である。

 社会的不適応については、カーネギーメロン大学のグループの著名な研究がある。このグループは、ピッツバーグの8つの地域から集めた73世帯169名を対象として縦断調査研究を行い、インターネット使用によって、家族とコミュニケーションを持つ時間が減ること、日常的に付き合う友人の数が減ること、さらに、孤独感が高まること、抑うつが強まることを明らかにした。この研究は、子どもだけが対象ではないが、対象者のほぼ30%が10代であったこと、また、若年層のほうが一般にメディアの影響を受けやすいことを考えると、この結果は、子どもにもかなり当てはまるものとして捉えられそうである。

 情報倫理観については、中学生に対する準実験研究があり、インターネット使用によって、情報倫理観が低下していく傾向にあることが示されている。こうした情報倫理観の低下は、インターネット世界の中で非倫理的な行為が横行することを観察して、それに慣れ、その結果、それが非倫理的な行為でないと思うようになること、また、自分自身がインターネットを使えるようになると、しようと思えば非倫理的な行為もできるので、正当化によってその非倫理性を過小評価するようになること、などが理由として考えられる。

 また、悪影響ではないが、子どもによるインターネットの悪用も、インターネットの問題点として指摘されている。インターネットにおいては、他者のプライバシー情報や、他者を誹謗・中傷する情報、犯罪を助長する情報などを多くの人の目に触れさせることが簡単にできる。また、他者のコンピュータシステムに不正侵入することも起こり得る。実際に、子どもがこれらの悪用を行ったという事例はたびたび見られる。


2.メディアの光

 これらのメディアには、こうした影の部分だけでなく、光の部分もあり、それには豊かな可能性がある。
 テレビゲームはまず、子どもの気持ちを強く引きつけており、娯楽ツールとして優れたものと言える。実際に、テレビゲームは、コンピュータを利用して、ゲーム元来の楽しみを巧みに増幅させている。すなわち、コンピュータの利用によって、(1)ユーザーにとって適切な目標を常に設定する、(2)ユーザーに対し強い報奨を与える、(3)操作を容易にするなどを実現し、ユーザーの動機づけを能率よく高めている。

 テレビゲームはまた、教育において有用であり、教科学習については、とくに動機づけが低い学業不振児において、教育を目的としたテレビゲームは強い効果を発揮すると考えられている。実際に、学業不振児に関する研究は、教育テレビゲームの使用によって、算数や数学、語彙、読みなどの学習内容についてテストの得点が上昇する、ないしは、学習に対する動機づけが高まることを示してきた。

 また、テトリスなどの知覚運動を行うテレビゲームは、空間知覚、目と手の共応などにおける知覚運動能力の訓練となっており、その能力を向上させ、さらに、地図の読みや車椅子の運転などの実際的な技能も伸ばしうることが示されてきた。

 テレビゲームは心理臨床にも有用である。テレビゲームは近年、社会的不適応とくに不登校の子どもの適応を促すために利用されている。不登校で児童相談所や教育相談所などを訪れる子どもは、強い対人不安や恐怖を感じており、相談員が子どもにカウンセリングを施そうとしても、両者が直接に対面した状況では、子どもに心を開かせたり、十分な話をさせることが難しい場合がある。そうしたとき、子どもとテレビゲームをしたり、あるいは、それを話題することによって、カウンセリングがうまく進むことがある。テレビゲームが子どもと相談員の関係におけるクッションとなり、子どもの緊張を緩和するのである。

  また、テレビゲームは、それで気を紛らわせ、ユーザーの心理臨床的な問題を取り除くために用いられることもある。例えば、ガンや腫瘍の治療のために化学療法を受けている子どもの苦痛と不安や、副作用に対する心配を減らすために、テレビゲームはしばしば利用され、実際にその効果が示されてきた。また、脅迫的で自己破壊的な行為を解消するのにテレビゲームが利用され、成果が挙がった例もある。

 次に、インターネットについてであるが、これは、高い柔軟性と利便性を持つ、優れたコミュニケーション・ツールであり、この出現によって、人々のコミュニケーションは地理的、物理的、時間的制約をますます受けにくいものになったと考えられる。インターネットはまた、優れたデータベース・ツールでもある。こうした有用性によって、子どもを含め、人間が受ける恩恵は非常に大きいと考えられる。

 教育はその1つの領域であると見られる。教育現場ではすでに、インターネットを利用しようとする、さまざまな先進的な実践が行われており、大規模なプロジェクトも多く見られる。これらの実践では、インターネットによる情報収集、遠隔地にいる人との交流や協同学習などを通じて、算数や社会などの従来的な教科内容の学習だけでなく、情報活用能力や国際理解などの向上も目論まれている。実際に、インターネット使用がこれらの能力を伸ばすことを示した実証研究も出されている。このように、教育におけるインターネットの利用は現実に盛んになりつつあり、最近では、インターネットを最大限に利用したヴァーチャル学校が運営されるまでに至っている。

 インターネットの利用は、心理臨床の分野においても注目されている。心理臨床の現場では、インターネットによるセラピーが始まっており、それは急速に拡大しつつある。インターネットを利用した自助グループの活動も盛んであり、不登校児をつなぐネットワークも形成されつつある。また、インターネットが、障害児の活動範囲を広げ、その支えとなりうることが指摘されている。



3.情報倫理とメディアリテラシー

 以上のように、テレビゲームやインターネットには確かに、子どもに対して悪影響を及ぼしたり、悪用を招く側面がある。しかし、それらのメディアがもたらす恩恵も大きい。それゆえ、こうしたメディアに対して単に背を向けるのではなく、その影の部分にうまく対処しながら、光の部分を享受していくのが得策である。

 影の部分に対処する手段してまず考えられるのは、規制である。しかし、メディアの規制は、言論や表現の自由を縛り、本来、避けることが望ましいものである。また、インターネットについては、世界的な取り組みが必要になるが、それはもとより困難である。

 そこで、重要になるのが、教育である。メディアリテラシー、とくにメディアに対する批判的思考の教育によって、メディアによる悪影響は避けられる部分が少なくないと考えられる。また、情報倫理教育によって、メディアの悪用が減ることが期待される。これらの教育が実際に効果を持てば、メディアに対する規制を少なくすることができる。

 今後は、これらの教育を効果的に行うための方法の開発や、それに関する研究および実践が大いに進められるべきである。これに成功することが、メディアの光をますます輝かせるものとなるのである。 インターネットは、高い柔軟性と利便性を持つ、優れたコミュニケーション・ツールであり、この出現によって、人々のコミュニケーションは地理的、物理的、時間的制約をますます受けにくいものになったと考えられる。インターネットはまた、優れたデータベース・ツールでもある。こうした有用性などから、インターネットを子どもの教育や心理臨床などにおいて利用しようとする考え方が強まっている。



【参考文献】
(1) 坂元 章 (2000) 21世紀はテレビゲーミング社会 −娯楽主導から有効利用へ− シミュレーション&ゲーミング, 10(1), 4-13.
(2) 坂元 章(編) (2000) インターネットの心理学 −教育・臨床・組織における利用のために− 学文社 全181頁

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