21世紀はテレビゲーミング社会

−娯楽主導から有効利用へ−

坂元 章
(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科)

Video gaming society in the 21st century: From entertainment to usefulness

Akira Sakamoto 

シミュレーション&ゲーミング, 10(1), 4-13, 2000.


1. はじめに


 日本の家庭にテレビゲームが普及し、人々の生活の一部になったと言われて久しい。テレビゲーム産業は巨大化し、テレビゲームの話題は常に社会の注目を浴びるようになっている。

  こうしたテレビゲーム産業の成功は専ら、娯楽としてのテレビゲームの普及によるものであったと考えられる。テレビゲームは、娯楽としてそれまでの遊びの多くよりも優れており、そのために、多くの人々に支持されてきたように見える。

  しかし、テレビゲームは、単に娯楽を与えるだけでなく、教育、健康、心理臨床などのさまざまな分野で有効利用できる可能性も持つものである。しかし、現在のところ、そうした有効利用はあまり行われていない。

  また、従来から、テレビゲームが人々の発達に悪影響を与えるのではないかという懸念は、テレビゲームに関する重要な問題になっており、それに対してどのように対処していくかを真剣に考えなければならない状況になっている。

  本稿では、これらをふまえて、来るべき21世紀の社会において、テレビゲームとその産業が重要な役割を果たし、高い評価を得るために、テレビゲームに関して、どのような取り組みが考えられるかについて論じる。

  本稿ではまず、日本におけるテレビゲームの普及の状況と、その娯楽としての優秀性について述べる。続いて、テレビゲームの有効利用に関する内外の研究や実践に言及し、テレビゲームの悪影響に関する問題に触れる。そして、21世紀におけるテレビゲームに対する取り組みについてまとめる。



2. 日本におけるテレビゲームの普及

  日本における家庭用テレビゲームの浸透は、1983年の任天堂による「ファミコン」の発売に始まるものである。それまでは、ゲームセンターや、ゲームが置いてある喫茶店に行くか、あるいは、パソコンを使って自分でプログラミングを書かない限りは、なかなかテレビゲームで遊ぶことはできなかった。ファミコンの登場によって、誰でも家庭で簡単にテレビゲームを楽しめるようになったのである。

  発売当初は、任天堂でさえ、ファミコンがそれほどの人気商品になるとは予測していなかった(栗原, 1993)。しかし、その販売数は爆発的に伸び、1985年のスーパーマリオの発売で、その人気は確定的なものとなった。この時期には、一刻も早くテレビゲーム遊びをしたいために、授業が終わると子どもが急いで下校してしまう「特急下校」が話題になった。男子では、テレビゲームは、欲しい遊び道具のトップになり、1986年には、一年間の出荷数が390万台にまで達し(cf. 電通総研, 1998)、半分の子どもがテレビゲームを所有するようになった。また、この時代には、テレビゲームは、家族の一員になったと言われるようになった(栗原, 1993)。

  その後、いったん出荷数は減少したが、テレビゲームの人気は衰えず、1988年の「ドラゴンクエストV」の発売で、その熱狂はピークに達した。この発売時には、多くの子どもが、購入のために販売店の前に徹夜で行列を作り、東京都教育委員会は「購入のために学校を欠席することの禁止」を指導するほどであった。また、そのソフトが買えなかった子供がそれを買った子供を、暴力で脅し、それを奪い取る行為が頻発した。これらは「ドラクエ事件」として注目を集めたものである。

  1987年以降は、ファミコンに加えて、PCエンジン、メガドライブ、ゲームボーイ、スーパーファミコン、セガサターン、ニンテンドー64、プレイステーション、セガドリームキャストなど、いろいろな会社から新しいテレビゲーム機器が次々に登場した。テレビゲームは多様化し、より洗練され、子どもの心をしっかり捉え続け、1988年から今日まで大幅に出荷数を伸ばしている。1992年には、任天堂の利益は、日本の代表的企業であるトヨタ自動車のそれを上回っている(読売新聞, 1999, 8/11)。1996年には、国内だけで、一年に1200万台を越えるテレビゲーム機が出荷された(cf. 電通総研, 1998)。これは日本の人口である1億2000万の10分の1にあたる。現在では、1年に1000万台以上のテレビゲーム機と約1億本のゲームソフトが販売され、市場規模は、テレビゲーム機で2000億円、ゲームソフトで5000億円になっており、日本人の小学生の90%が自分専用のテレビゲーム機を所有している(電通総研, 1998)。

  こうした出荷数の伸びに伴い、子どものテレビゲーム遊びの量も増加している。例えば、NHK放送文化研究所は、1987年と1997年に小学生に対して「テレビゲームでどれくらい遊んでいるか」を尋ねている(白石, 1998)。その結果、「いつも遊んでいる」あるいは「ときどき遊んでいる」と答えた子どもは、1987年では58%であったのに対し、1997年では77%と、20%近く増加していた。とくに女子の伸びが激しく、1987年では40%であったのに対し、1997年では64%になっていた。男子については、1987年では75%、1997年では89%であった。他の調査も、同様の結果を示している。

  ドラクエ事件が起こったのは1988年であり、そのときにすでに、子供の熱狂ぶりが問題とされたが、現在は、当時と比べても、テレビゲームの使用量は増えている状況と言える。現在では、小学生男子については、59%の子どもが平日1日に1時間以上テレビゲームで遊んでおり、23%の子どもが2時間以上遊んでいる。女子については、1時間以上遊ぶ子どもが20%、2時間以上遊ぶ子どもが6%程度である(白石, 1998)。



3. 娯楽としてのテレビゲーム

  こうして普及してきたテレビゲームの用途は、ほとんどの場合、娯楽であり、上述したようなテレビゲームに対する人々の熱狂的な支持は、テレビゲームが娯楽として優れていることを意味している。

  なぜ、テレビゲームが魅力的であるかについては、種々のことが指摘されているが(e.g., Provenzo, 1991)、以下のようにまとめられるのではないかと考えられる。

  従来から、囲碁や将棋のような室内ゲームから、ディベートやスポーツ、さらには、マーケティングや選挙などまで、多種多様なゲームがあると言ってよい。これらのゲームはもともと、戦略を練る楽しみや、利益獲得あるいは問題解決を遂げる達成感、さらには、他者を打ち負かす勝利感などを与え、人々をひきつけてきたものである。テレビゲームは、このようなゲームの楽しみを、コンピュータを利用することによって、さらに強めたものと考えられる。コンピュータの利用によって、テレビゲームは、次の5つの点で、使用者の動機づけを能率よく高めているように見える。

  第1に、使用者にとって適切な目標を常に設定している。テレビゲームは、初心者に対しては、易しい課題場面を与える。熟練に伴って、使用者は徐々に難しい課題場面に直面していく。これまでの動機づけ研究によれば、一般に、人々は中程度に難しい課題に対してもっとも高い動機づけを持つとされる(Atkinson, 1964)。テレビゲームの中ではこれが常に実現されている。

  第2に、使用者に対し強い報奨を与えている。課題を達成した使用者は、印象的な映像や音楽を楽しむことができる。また、新しい体験が展開する可能性が開けてくる。これらは報奨となって、使用者のテレビゲーム使用をさらに促すと考えられる。
  第3に、操作が容易になっている。テレビゲームでは、多くの操作が自動化されており、例えば、サイコロを振ったり、カードを配るなどの手間に煩わされることはない。使用者は、余計な手間なく、ゲームの中核的な内容を楽しむことができる。

  第4に、複雑な内容を提供している。テレビゲームでは、使用者の選択や行動に応じて、さまざまな場面が提示される。使用者は常に新規な場面に遭遇し、興奮を持続させると考えられる。

  第5に、現実的な場面を提示している。テレビゲームの場面は、近年の立体映像技術の進歩によって、ますます現実場面に近いものになっている。これは、テレビゲームに対する使用者の没入感を強めるものと考えられる。

  これらの5つの要素はすべて、コンピュータの利用によって可能あるいは容易になったものである。
 
  以上のように、テレビゲームは、ゲームというもともと魅力的なものを、コンピュータの利用によって、その魅力を高めており、その結果、優秀な娯楽ツールとなっていると考えられる。



4. テレビゲームの有効利用

  このように、テレビゲームは娯楽として優秀であり、実際に、それによってこれまでの普及は達成されてきたと見られる。しかし、21世紀の社会において、テレビゲームが高い社会的評価を得るためには、テレビゲームを娯楽ツールだけにとどめておくのではなく、その有効利用を模索することにも意味があると考えられる。実際に、テレビゲームは、教育、健康、心理臨床などの分野で有効利用の可能性があることが指摘され、研究されている(Griffith, 1997)。以下に、それらについて述べる。


4.1  教育

  学校ではもともと、CAI(Computer-Assisted Instruction; コンピュータ支援教育)によって、コンピュータを利用した教科教育が行われてきた。CAIは、生徒それぞれの習熟度に応じた課題が自動的に設定できること、実物を入手しにくい学習対象について現実性を損なわずに提示できること、教員が単純な教示を繰り返す手間を省略できることなどが長所とされ、しばしば利用されてきた。

  教科教育においては、生徒の動機づけを高めることは重要な問題であり、それゆえ、CAIにテレビゲームの要素を取り入れて、教育テレビゲームを製作し、それによって生徒の学習に対する動機づけを高めようというアイディアは従来から見られてきた。実際に、研究者による研究活動、業者による商業的行為、教員による教育実践などの一環として、教育テレビゲームは、多様なものが製作されており(Kelly & O'Kelly, 1994)、それを取り込んだカリキュラムも見られる(Blanchard & Stock, 1999)。教育テレビゲームは、習熟度に応じた課題設定、学習対象の現実的な提示などのCAIの長所と、さらに、動機づけを高めるというテレビゲームの長所を併せ持っており、豊かな可能性を持つ教育ツールと言える。

  学校での教科学習については、とくに、もともとそれに対する動機づけが低く、それが問題となっている学業不振児に対して、教育テレビゲームは有効であると考えられる。実際に、学業不振児に関する研究は、教育テレビゲームの使用によって、学業不振児が算数や数学(Edwards,1992; Okolo, 1992)、語彙(Malouf, 1987-1988)、読み(Schwartz, 1988)などの学習内容について、テストの得点が上昇する、ないしは、学習に対する動機づけが高まることを示してきた。

  例えば、Schwartz (1988)は、読みの能力が通常よりも少なくとも18ヶ月は遅れている24名の小学生を対象にして、DISTARと呼ばれる、教師による伝統的な教育と、自作のテレビゲームによる教育の効果を比較した。そのテレビゲームは、それまでの研究の知見に基づいて、文字一致判断、音韻一致判断、早読み、最終単語選択の4つの能力を訓練するように製作されたものであり、使用者は、易しい問題から始め、それで高い成績を得るようになると、より難しい段階の問題に移行し、また、その成績は、回答の正確さと速さによって判定され、使用者に常に報告されるなど、ゲーム仕立てになっている。また、ある段階から次の段階に移行するとき、その段階についての卒業証書が出されること、次の段階に進むのに必要な成績が使用者に常に示されること、使用者は入力にあたってキーボードをほとんど使う必要はなく、ボタンボックスを操作するか、マイクに吹き込むだけで済むこと、使用者の名前を読んだり、課題の内容を教示するときに、シンセサイザーによって作られた人声が使われることなどが工夫されている。実験の結果、テレビゲームによる教育は、伝統的な教育よりも効果的であり、しかもそれは、もともと読みの能力が低い子供で顕著であることが示された。

  この研究でもそうであるが、学業不振児では、教科的な内容に関する教育テレビゲームの効果がしばしば報告されているが、学業不振ではない、あるいは、その度合いが強くない子供の場合では、教育テレビゲームの効果はあまり報告されていないように見える。このように、教科的内容の教育テレビゲームは、学業不振で動機づけが低い子供でこそ、効果的であると思われる。

  また、従来から、テレビゲームには一般に、空間知覚(Dorval & Pepin, 1986; Greenfield, Brannon, & Lohr, 1994; McClurg & Chaille, 1987; Okagaki & Frensch, 1994; Orosy-Fildes & Allan, 1989; Subrahmanyam & Greenfield, 1994; Tkacz & LaForce, 1998)、目と手の共応(McSwegin, Pemberton, & O'Banion, 1988)などにおける知覚運動能力の向上に効果があるとされている。例えば、Okagaki & Frensch (1994)は、大学生の被験者が6時間にわたりテトリスで遊ぶことによって、心的回転や図形合わせの能力が高まることを示した研究である。テトリスなどのテレビゲームでは、使用者は知覚運動を行う必要がある。先述したように、テレビゲームは使用者の動機づけを高める力があり、そのため、使用者はテレビゲームに没頭し、その結果、知覚運動能力が訓練されることになると考えられる。 こうしたテレビゲームの特徴に注目し、知覚運動能力を能率的に訓練するツールとしてゲームソフトを開発して、それを教育場面で利用することも可能であるかもしれない。

  このように、教育テレビゲームには大きな可能性があり、実際にそうしたゲームソフトはたびたび製作されてきたが、現在のところ、その潜在力が十分に実を結んでいるとは言えない。教育テレビゲームを授業に取り入れている学校は少ないように見えるし、少なくともヒット商品は生まれていない。とくに学業不振児に向くようなものでは見られない。マクシス社が1989年にデビューさせたシムシティは、都市計画のある部分の学習が可能と言われ、多くの人々に親しまれてきたが、学業不振児の学習を補助するものではない。都市計画を勉強しようという学生にとっては、テレビゲーム仕立てになっていない教材が与えられても、その学習に意欲的に取り組むであろう。

  こうした状況になっているのは、優れた教育テレビゲームのソフト製作が困難なことが最大の理由ではないかと考えられる。教育テレビゲームのソフトは、ゲームソフトと教育ソフトの両者の側面を持つが、その一方でさえも優れたものを製作するのは困難であり、それを両者において兼ね備えたものを製作するのは格段に困難であると言えよう。また、そうした困難なソフト製作のためには、多額の資金が必要であると考えられるが、教育テレビゲームの市場の大きさについては見通しが立ちにくく、そのことも、そうしたソフト製作を困難にしているのかもしれない。さらに、コンピュータやテレビゲーム機などが学校に十分に普及していないこと、教員にとってテレビゲームを教育に利用することには抵抗感があること、また、その効果があまり知られていないことなども理由であるかもしれない。


4.2  健康

  テレビゲームを、リハビリテーションや高齢者の身体機能維持などのために利用しようとする試みはアメリカを中心にしばしば見られている。これも、テレビゲームが持っている、動機づけを高め、知覚運動を行わせるなどの特質を生かそうとするものである。

  こうした試みがよく行われているのはまず、リハビリテーションの領域である。例えば、脳に外傷を受けた患者が、知覚や注意などの認知機能を回復するために、テレビゲームを用いた場合の効果が報告されている(Larose, Gagnon, Ferland, & Pepin, 1989; Malec, Jones, Rao, & Stubbs, 1984; Skilbeck, 1991)。また、腕を伸ばすなどの身体機能を回復するために、テレビゲームを用いた研究もある(Krichevets, Sirotkina, & Yevsevicheva, 1995; Sietsema, Nelson, Mulder, Mervau-Scheidel, & White, 1993; Taylor & Berry, 1998)。さらに、テレビゲームが注意障害の治療に用いられる場合がある(Pope & Bogart, 1996)。これらの研究は、こうしたテレビゲームの効果が認められることをしばしば示してきた。

  また、テレビゲームによって、高齢者の身体機能を維持しようとする試みもある。Clark, Lanphear, & Riddick (1987)は、テレビゲームをしている高齢者は、速い反応が可能になることを示し、Drew & Waters (1986)は、高齢者が、テレビゲームによって手先の器用さ、目と手の共応、反応の速さなどの知覚運動能力を獲得することを示した。また、Dustman, Emmerson, Steinhaus, Shearer, & Dustman (1992)は、そうした反応の速さが脳波の水準にまで及んでいることを見出し、長期療養している高齢者を対象にしたMcGuire (1984)の研究では、テレビゲーム遊びによって高齢者の自尊心が高まっていることを明らかにした。Goldstein, Cajko, Oosterbroek, Michielsen, van-Houten, & Salverda (1997)もまた、テレビゲームをした高齢者は、反応が速くなり、幸福感を高めることを示した。

  日本においても、テレビゲームの利用によって、老化によるボケを予防しようとする試みがある(遊びの創造研究会, 1999)。この研究で特徴的なのは、既存のゲームソフトをただ利用するのではなく、とくにそのための用途を持つゲームソフトが製作されている点である。この「めんそ〜れ沖縄」と題するソフトでは、商店街の福引きで特賞を当てた主人公が沖縄旅行に出発し、3泊4日の旅行の間にさまざま場所を訪れ、沖縄独自の文化に触れながら人々と交流するというストーリーが採られている。使用者は、その旅行の中で知覚運動を必要するミニゲームをいくつか行う。入力手段や画面のレイアウトなど、高齢者に適合するように工夫されている。

  また、最近、テレビゲームを使って、肥満の解消に役立てようとする製品が開発されつつある。これは、ティー・ワイ・オー社がコンビ社と協同して開発しているHAVエアロサイクルというもので、使用者は、フェイス・マウント・ディスプレイをかけながら、エアロバイクをこぐ。そのこぎ方に応じて、テレビゲームが進行し、その進行は、ディスプレイに映し出される。このことによって、使用者は、動機づけを高め、エアロバイクをこぎ続け、肥満の解消に向かうというアイディアである。(1)

  以上のように、従来は、健康の維持のために、既存のテレビゲームをそのまま利用するという試みが主であったが、最近は、それを用途としたテレビゲームが開発されるようになってきた。このように、健康のためのテレビゲーム利用は発展しつつあるが、現在のところは、それはあまり普及しておらず、その潜在力は十分に発揮されていない状況であると言えよう。これも、教育ソフトの場合と同様に、ソフトを製作する困難さや、市場の大きさの問題によるものかもしれない。


4.3  心理臨床

  テレビゲームは近年、心理臨床のツールとして有効であるとされ、社会的不適応の子供とくに不登校の子供の適応を促すために利用されている(天野・福島, 1998; 香山, 1996; 山崎, 1997)。不登校で児童相談所や教育相談所などを訪れる子供は、強い対人不安や恐怖を感じており、相談員がカウンセリングを施そうとしても、相談員と子供が直接に対面した状況では、子供に心を開かせたり、十分な話をさせることが難しく、有効なカウンセリングができない場合がある。そうしたとき、子供とテレビゲームをしたり、あるいは、それを話題することによって、カウンセリングをうまく進められることがある。子供は直接に相談員に対する場合には緊張を感じても、テレビゲームに対してはそれを感じない。そこで、これを子供と相談員の間に置いてクッションとし、それを利用してカウンセリングを進めているのである。

  このようにテレビゲームをクッションとして利用することは、子供だけでなく、大人の心理臨床にも適用可能であるかもしれない。坂元・磯貝・木村 (1999)は、大学生の対人恐怖傾向者を被験者として、コンピュータネットワークを用いたコミュニケーションゲームで他者と社交的に相互交流させることによって、被験者が現実場面でも外向的にふるまうようになる可能性を示した。対人恐怖傾向者がゲーム場面で社交的に相互交流できたのは、コンピュータがクッションになっていたからであり、もし、ここで直接対面の状況が用いられれば、相互交流が困難になってしまい、それゆえ、現実場面における外向性も見られないのではないかと考えられる。

  以上のように、テレビゲームを心理臨床に用いることは、豊かな可能性を持つものと考えられ、実際に、不登校の子供などの心理臨床において、テレビゲームは広く用いられているようである。しかし、現在のところ、その効果を検討した研究は少なく、その有効な利用の方法などについての知見は蓄積されていない。また、心理臨床のためにゲームソフトを製作しようとした試みは全く見られない。それゆえ、心理臨床においても、テレビゲームは、まだその潜在力を発揮する余地があるのではないかと思われる。

  なお、テレビゲームは、それで気を紛らわせ、使用者の心理臨床的な問題を取り除くために用いられることもある。例えば、ガンや腫瘍の治療のために化学療法を受けている子供の苦痛と不安や、副作用に対する心配を減らすために、テレビゲームはしばしば利用され(Kolko & Richard-Figuero, 1985; Redd, Jacobsen, Die-Trill, & Dermatis, 1987; Vasterling, Jenkins, Tope, & Burish, 1993)、実際にその効果が示されてきた。また、脅迫的で自己破壊的な行為を解消するのにテレビゲームが利用され、成果が挙がった例もある(Phillips, 1991)。


4.4  まとめ

  以上のように、テレビゲームは、教育、健康、心理臨床の分野で有効利用するために、豊かな潜在力を持つものであるが、現状では、その潜在力は十分に実を結んでいないように見える。少なくとも、われわれの日常生活のあちこちでテレビゲームを利用した技術に頻繁に出会うとは言えない。有効利用のためには、その用途のソフトとして優れているだけでなく、テレビゲームのソフトとしても優れている必要があり、そうしたソフトの開発には労力と資金がかかり、採算がとれないのかもしれない。有効利用が進んでこなかった1つの原因はそれであるかもしれない。しかし、テレビゲーム機の性能や、ゲームソフトの製作技術は、日進月歩であり、そうした困難なソフト製作も徐々に採算がとれるようになる可能性がある。また、そうしたものが出回ってくれば、社会の側にもそれを受け入れる構えが出来上がり、それはさらに有効利用を促進する力になると考えられる。いずれにしても、こうした有効利用が進むことによって、テレビゲームとその産業は、高い社会的評価を得ることになろう。21世紀には、有効利用に関する研究が進み、有効利用のためにゲームソフトが開発され、普及していくことが望ましいように思われる。



5. テレビゲームの悪影響

  従来から、テレビゲームが人々の発達に悪影響を与えるのではないかという懸念は、多くの側面で見られている。たとえば、身体的なものとしては、テレビゲーム遊びによって、視力が落ちる、姿勢が悪くなる、てんかん発作が起こる、運動不足になる、などであり、一方、心理的なものとしては、暴力的になる、社会的不適応に陥る、衝動的になる、伝統的な性役割観を身につけるようになる、学力が落ちる、などであり、これらの懸念は実際に現実の社会を大きく動かしている(坂元, 1999a)。

  これまで、こうした懸念の真偽を実証的に検討しようとした研究は乏しく、これらの真偽は不明な部分が少なくないが、暴力性と社会的不適応に関する研究は比較的進んでいる(Emes, 1997)。

  社会的不適応に関する懸念は、使用者がテレビゲームに没頭する余り、現実の人間と相互作用することがなくなり、その結果、現実の人間と付き合う意欲や、それに必要な技能を失っていくのではないかなどの心配から生じていると考えられる(坂元, 1999b)。これまでの研究は、テレビゲームがこうした社会的不適応を招くという可能性を支持せず、あるとしても、もともと不適応的な人がテレビゲームをするようになるという逆方向の影響関係であることを示してきた(坂元, 1999b)。テレビゲームが心理臨床において盛んに利用されていることを考えても、テレビゲームが社会的不適応を導くとは考えにくいと言える。

  一方、暴力性に関する懸念は、使用者がテレビゲームの中で暴力行動を学習し、現実場面でもそれを出してしまうのではないかなどの心配から生じていると考えられる(坂元, 1999c)。これまでの研究知見によれば、暴力性に対する影響は否定されないが(Dill & Dill, 1998; Griffiths, 1999)、ただし、そうした影響は、あるとしても、限られたソフトにおいてであるように見える。とくに、暴力行動に対する報奨性が強いもの、映像や操作の現実性が高いものは、使用者の暴力性に影響を与える可能性が考えられる(坂元, 1999c)。

  テレビゲームの業界団体であるコンピュータ・エンタテインメント・ソフトウェア協会(CESA)は、テレビゲームと暴力性に関する懸念に配慮して、子供の暴力性に悪影響を及ぼすと考えられるゲームソフトについて自主規制を行っている。上述のように、暴力性に影響を与えうるのは、限られたソフトと考えられるので、問題性の高いソフトをとくに規制するという方向は、これまでの研究知見に沿っているものと見なせる。(2)

  このように、暴力性と社会的適応性に関しては若干の研究があるが、テレビゲームの悪影響に関する研究は全体に少なく、明らかになっていないことは多い。今後、こうした研究を進める余地は大いに残っている。

  これらの研究は、テレビゲームの使用者の側にとって重要であるだけでなく、テレビゲームとその産業にとっても意味の大きなものである。現在のところ、テレビゲームの悪影響に関する懸念は根強く、テレビゲームとその産業には依然として強い不信感があるように見える。そして、何か事件が起これば、一層、その不信感は強くなるであろう。こうした不信感は、悪影響が心配されるテレビゲームの開発を押し止めるだけでなく、そうした心配のないテレビゲームや、さらには、それを有効利用しようとするテレビゲームの開発や研究さえも阻害する可能性がある。例えば、ある機関がテレビゲームの開発や研究に助成や支援をしようと計画しても、不信感が強い状況では、それが有効利用を目標にしたものであっても、それに反対する声が出る場合があるであろう。これが不信感の恐ろしさである。

  テレビゲームの悪影響に関する研究は、不信感を取り除くのに効果のあるものであろう。例えば、(1)テレビゲームは本当に悪影響を及ぼすのか、(2)どのようなテレビゲームが悪影響を及ぼすのか、また、どのようなものであれば、そうした心配は必要ないのか、(3)悪影響を及ぼすものがあるとしても、それにどのように対処すれば悪影響を抑えられるのか、などの研究である。こうした研究の知見に従って開発を進めておけば、それだけ事件は生じにくくなるし、また、この問題にきちんと取り組んでいるところが見えれば、不信感はそう強くはならないであろう。


6. 21世紀における取り組み

  以上のように、これまでのテレビゲームの普及はあくまで娯楽主導のものであった。しかし、来るべき21世紀の社会において、テレビゲームとその産業が重要な役割を果たし、高い評価を得るためには、さらに取り組むべきものが2つあると考えられる。

  第1は、テレビゲームの有効利用である。テレビゲームは、教育、健康、心理臨床などの分野で豊かな可能性があるものであり、実際にそうした場での有効利用はときに見られるが、現在では、十分にその潜在力が発揮されているとは言えない。それゆえ、そうした有効利用の研究や実践をもっと進めることには意味があると考えられる。実際に、テレビゲーム機やソフト製作技術などのテクノロジーはますます向上すると見られるので、テレビゲームの有効利用が広く実現される可能性はあると考えられる。

  第2は、テレビゲームの悪影響に関する研究である。これによって、テレビゲームの悪影響を避けることが可能になり、また、テレビゲームやその産業に対する不信感を軽減できると考えられる。これは、テレビゲームの有効利用をさらに押し進める力にもなる。現在では研究は乏しく、今後は、一層多くの研究が必要である。とくにテクノロジーが向上するにつれ、悪影響に対する懸念は強くなると考えられるので、こうした研究の重要性はますます高まるであろうと考えられる。

  これらが進展すれば、テレビゲームの使用者と製作者の両者にとって益のある社会が訪れることになると考えられる。使用者は、テレビゲームを娯楽として楽しむだけでなく、そのさまざまな有効利用による恩恵を享受できる。そして、テレビゲームによる悪影響の被害は受けない。一方、製作者は、娯楽としても、有効利用するものとしても、テレビゲームを自由に製作し、販売できる。悪影響のあるものは販売できないとしても、それ以上に余計な足かせになるものはない。そして、製作者は、高い社会的評価を得ることになり、これは有形無形に製作者に対して恩恵を与えるものになろう。

  21世紀には、こうした形でテレビゲームが有益なものとして行き渡り、望ましいテレビゲーミング社会が実現することが期待される。そして、これは取り組み次第によって可能になるものではないかと考えられる。



7. 要約

  日本における家庭用テレビゲームの普及は、1983年に「ファミコン」に始まるものであり、現在では、小学生の90%が自分専用のテレビゲーム機を所有するまでになっている。

  テレビゲームは、適切な目標の設定、報奨性、操作性、内容の複雑性、現実性などの特徴を持ち、娯楽として優れており、これまでの普及もあくまで娯楽主導によるものと考えられる。しかし、今後は、テレビゲームを娯楽ツールにとどめておくのではなく、その有効利用を模索する道もある。

  実際に、テレビゲームには、教育、健康、心理臨床などの分野において豊かな可能性がある。例えば、教育の分野においては、学業不振児の教科学習、あるいは、知覚運動能力の訓練などにおいて効果があると見られる。健康の分野においては、リハビリテーションや、高齢者の身体機能維持の訓練などにおいて効果があると考えられる。心理臨床の分野においても、人間関係のクッションとして用いるテレビゲームを心理療法が有用に見える。

  こうした潜在力にもかかわらず、現在のところ、有効利用に関する研究や実践は十分なものとは言えない。今後、これらがもっと進むことが望まれる。

  また、有効利用と同時に、暴力性に対する影響など、テレビゲームの悪影響についての研究も重要である。こうした研究によって、テレビゲームとその産業に対する不信感が軽減され、それは有効利用の研究や実践を押し進める力になると考えられる。

  これらの努力によって、テレビゲームの使用者と製作者の両者にとって益のある社会が実現されると考えられる。21世紀には、そうした望ましいテレビゲーミング社会の到来が期待される。



補注

(1) この製品については、ティー・ワイ・オー社HAV開発室のウェブページ
  (http://www2.tyo.co.jp/hav/)を参照できる。
(2) この倫理規定については、CESAのウェブページ
  (http://www.cesa.or.jp/cesa/jpn.html)を参照できる。



参考文献

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